3行でわかる 何を作るべきかを決める力

  • 要件定義は「決まった要件を整理する」仕事。「何を作るべきか」を決めるのは、その“手前”で「そもそも何を作るか」を見極める別の仕事。
  • 顧客の要望は、本当の課題とは限らない。「画面が欲しい」の裏に「通知の自動化が要る」が隠れている。言われた物をそのまま作ると外れる。
  • 何を作るかを見極める力がUX設計力。作るコストが下がるAI時代ほど、「当たり外れの判断」そのものが価値になる。

「何を作るべきか」を決めるのは、要件定義とどう違うのか?

「何を作るべきか」を決める仕事と、要件定義は別物です。要件定義は「決まった要件を整理する」仕事であり、「何を作るべきか」を決めるのは、その“手前”で「そもそも何を作るか」を見極める仕事です。要件定義の前に、もう一段「何を作るか決める」工程がある、と考えると分かりやすくなります。

左は『言われた物を作る』流れで、顧客の要望→要件定義→実装と進む。右は『何を作るか決める』流れで、要件定義の手前に現場を観察する→本当の課題を見極める→何を作るか決める、という上流の工程が一段あり、その後に要件定義→実装と続く対比図。FDEは要件定義の手前から関わる。
要件定義は「何を作るか決まった後」の仕事。FDEの上流は、その“手前”から始まる。

下の表で、この2つを3つの軸(いつの仕事か/何をインプットにするか/立てる問い)でそろえてみます。同じ「上流っぽい仕事」に見えても、立っている位置がはっきり違うことが分かります。

要件定義 「何を作るべきか」を決める(FDEの上流)
いつの仕事か 何を作るか決まった“後” 何を作るか決まる“前”(要件定義の手前)
インプット 顧客が出した要望・やりたいこと 現場の観察・業務の実態・本当の課題
立てる問い この要件を、どう実現するか そもそも、何を作るべきか

要件定義は、長くソフトウェア開発を支えてきた確かな仕事です。「何を作るべきか」を決める仕事は、それを置き換えるものではありません。要件定義の手前に立ち、「整理すべき要件」そのものを顧客と見つけにいく——その一段を足すことで、開発全体の当たり外れが大きく変わります。

なぜ「言われた物をそのまま作る」と失敗するのか?

言われた物をそのまま作ると失敗しやすいのは、顧客の要望が、本当の課題とは限らないからです。要望は、顧客が自分なりに課題を「これを作ればいいはず」と翻訳した答えです。その翻訳がずれていると、要望どおりに作っても、現場の本当の困りごとは解けません。

たとえば、顧客が「在庫を一覧できる画面が欲しい」と言ったとします。言われたとおり立派な一覧画面を作って納品する。ところが現場では、誰も毎朝その画面を開きません。よく聞いてみると、本当に困っていたのは「在庫が一定数を切ったときに、気づかず欠品すること」でした。つまり必要だったのは画面ではなく、「在庫が減ったら自動で通知が飛ぶ仕組み」だったのです。

このとき、「画面が欲しい」という要望の裏に「通知の自動化が要る」という本当の課題が隠れていた、と言えます。言われた物だけを作る限り、この隠れた課題には永遠にたどり着けません。だからこそ、要望をいったん受け止めたうえで「本当に解きたいことは何ですか」と一歩踏み込む——その問い直しが、失敗を防ぐ分かれ目になります。

要件定義は「何を作るか決まった後」の仕事です。FDEの上流は「何を作るか」そのものを顧客と決めるところから始まります。要望を整理する前に、要望の裏の課題を見極める。ここに、作るものの当たり外れがかかっています。

「何を作るべきか」を決めるには何が要るのか?

「何を作るべきか」を見極めるために必要なのは、UX設計力です。現場を観察し、要望の裏にある本当の課題を掘り当てる力——リサーチや現場観察を通じて、「言われたこと」と「本当に必要なこと」のずれを見つける力のことです。

多くの受託・SIerは、決まったものを高い品質で作り切る実装力をすでに持っています。足りないのは、その実装力を「何を作るべきか」の判断につなぐ力です。顧客が「この画面が欲しい」と言ったとき、その場で「本当に必要なのは画面ではなく通知の自動化かもしれません」と問い直せる。この問い直しを支えているのが、現場を見て課題をとらえるUX設計力です。実装力という土台の上にこの力を重ねて、はじめて「何を作るか」から関われるようになります。中身はUX設計力とは?で詳しく整理しています。

そしてこの力は、一部の優秀な人の才能で終わらせないことが大切です。一人のスター社員が課題を見極められても、その人が抜ければ位置は揺らぎます。「何を作るか顧客と決められる」状態を組織として再現できるようにする——それがFDEという考え方の中心です。必要な力の全体像はFDEに必要なスキルにまとめています。

AI時代に「何を作るか」が重要になる理由は?

生成AIの時代に「何を作るか」がますます重要になるのは、作るコストが下がったぶん、当たり外れの判断そのものが価値になるからです。実装が速く・安くできるようになるほど、「速く作れること」では差がつかなくなります。残る差は、「そもそも、作るべき物を選べているか」になります。

作るのが大変だった時代は、作れること自体に価値がありました。だから「言われた物を、速く・安く作る」だけでも仕事になりました。ところがAIで実装の工数が下がると、その価値は誰でも手に入れられるものになり、行き着く先は価格競争です。同じAIを「何を作るか」を見極める側に置けば、外れない物を選ぶための道具に変わります。詳しくは生成AIで受託開発の単価は下がるのか?で解説しています。

言い換えると、AIは「作る」を安くしますが、「何を作るかを決める」は安くしません。むしろ、たくさん作れるようになったぶん、外れた物を作る損も大きくなります。だからこそ、要件定義の手前で「本当に必要なものは何か」を見極める力が、これからの受託・SIerの武器になります。この流れの中でエンジニアが手にすべき武器はバイブコーディング時代に必要な武器でも整理しています。